気がつけば師走. ChatGPTの衝撃的デビューから早1年. この1か月だけでも, OpenAIのCEO解任騒動があったかと思えば, GoogleがGPT-4対抗の新作AI, Geminiを発表. その能力を示すハンズオン動画は驚くべき内容でしたが, 実は映像をそれっぽくつなぎ合わせたフェイクであることが判明, 批判を浴びる姿を見るに, やはり「あのGoogleがすっかり"ふつうの会社"になってしまった」と感じます. そういえば, 勤続18年のGooglerが会社を去るにあたって投稿したブログ記事が最近話題になりました. Google社内で幹部が何かを語る際, 近頃は語る前からその内容を予想できたとのことなので, 要するに事なかれ主義的な大企業病ですね. 何にせよ相変わらず騒々しいAI業界です.
さて今回は, 以前の記事の続編として大学の出身学科(航空工学科)の同窓会に行ってきた話をします. 正式名称は「京大航空宇宙応物同窓会総会・講演会・懇親会」. 学科名の変遷の歴史(航空→応用物理→航空→航空宇宙)に合わせて, 同窓会の名称が長いです😅
とりあえず学科紹介
下の写真は大学のシンボル, 吉田キャンパスの時計台. 学部・修士の6年間をここで過ごした私には30年経っても変わらぬ懐かしい風景です. ただ悲しいことに, 私の学科はすでにここにはなく, 京都市西部の桂キャンパスという私には縁もゆかりもない場所にあるそうです😢
時計台に向かって右手に進んだところにあるのが当時の私の学び舎, 旧・工学部11号館, 航空工学教室. ザ・工学部という風体の質素な建物ですが, 4年生に上がり研究室に配属されて以降は, 研究がわりと楽しかったのでほとんどここに住んでいたといっても過言ではない😆
航空工学科が転出した後にこの建物に入ったのは, 大学院エネルギー科学研究科だそうです. なーんか, 世間にウケそうな今風の名前というか, 昔の質実剛健な大学とは違うよなーと思ってしまいます(航空工学教室がなくなった悲しさのあまり毒を吐いております🙇).
同窓会はいつも時計台の中にあるホールで行われます. 今はまだ同窓生の大多数が吉田キャンパス世代(驚くべきことに私などまだ「若手」の部類)なので吉田で開催されているのでしょうが, いずれ桂キャンパスに移るのかな? もしそうなったら私はたぶん行きませんw
GPA…何それ?
さてぼちぼち昔の大学の話をします. まずGPA (Grade Point Average; 学業成績の平均を4点満点で表す指標). 今の学生にとってGPAは大変重要です. 研究室配属, 大学院の推薦入試, 留学等々, イベントがあるたびに学生たちはGPAで比較され, GPAの高い学生が優遇されます. 大学に入ってから真面目に勉強する学生は大事にされ, 怠惰な学生は不利益を被る仕組みになっています.
今の時代では考えられないことですが, 昔の大学にはGPAのように学生を学業成績で仕分ける仕組みはありませんでした. 仕組み以前にそういう発想がありませんでした. 研究室配属は, 驚くなかれ, じゃんけんで決めていました. 信じられないと思いますが, 事実, 私の大学時代の同級生たちにこの話をすると表題の反応です. 「GPA…何なんそれって?」😂
そんな昔の大学生は真面目に勉強していたのかというと, ご想像の通り, もれなく全員怠惰でほとんど勉強しませんでした. そりゃそうでしょ, 人間誰しもしんどいのは嫌で, 楽をしたいので. ただ, 以前の記事でも述べたように3年次の専門科目とか4年次の卒業研究とか, どこかのタイミングで学問に目覚めるとその先が妙に楽しくなり, 道を誤って(?)大学院に進んだりするわけです. つまり適性の有無で人材が自然淘汰される仕組みでした. その分, 淘汰されず生き残った学生はもれなくモチベーションが高く, 一層勉強しました.
今の学生は違いますね. GPAが低いと損をするというプレッシャーをかけられ, 半ば強制されて, 点を取るために勉強します(もちろん, プレッシャーに動じない例外的な学生はいつの時代にもいますが). 点を取るためにどうするかというと, 多くの学生は点を取りやすい楽な科目を履修します. 何度も言いますが人間誰しもしんどいのは嫌なので. 結果, 興味があることを学ぶのが一番効率がいいのに, さほど興味がないけど楽な科目を選ぶ安全策が横行します. 大学としては, 卒業する学生の"品質"を一定以上に保つことができますが, 反面, 飛び抜けて優れた学生は少なくなります.
こういった時代の流れは, 私が在籍した航空工学科でも例外ではありません. 昔は大学入試で航空工学科を志望して受験し, 合格したら航空工学科に入学しました. 対して現在, かつての航空工学科は物理工学科の中の一コース(宇宙基礎工学コース)になっています. よって, 航空宇宙工学を志す受験生はまず物理工学科に入学し, 宇宙基礎工学コースを目指します. 希望のコースに進めるかどうかはGPA次第です. よって入学後も真面目に勉強することになります. ただ他者との競争になるので, 点の取れない科目を履修するリスクは回避して, 安全な履修計画を立てるでしょう.
学生の半分が留年
航空工学科は定員25人で, 工学部の中でもっとも小さな学科でした. 学生は弱い存在であるのに対して, 教授陣は偉大であり, 強い力を持っていました. 中でも学生から恐れられたのが曾根良夫教授(現・名誉教授). 何が恐いって, この方が教鞭を執られる3年次配当の必修科目「流体力学」, 通称「流力(りゅうりき)」がすごいのです.
- 3年次の最初の履修ではほぼ全員が不合格
- 4年次の2度目の履修で半分の学生が合格(多くはぎりぎり合格の「可」)
- つまり, 残り半分の学生は必修科目を落として留年
- 1回の留年で済めばよいが, 流力で2留する学生もざらにいた
ちなみに私自身はどうだったかというと, 3年次では順当に単位を落としましたが, 4年次で何とか「良」を得て留年を回避できました. 曾根先生から「可」の上の「良」を取るのはかなり難しいはずで, それなりに頑張った結果だと思います. 流体力学はナヴィエ・ストークス方程式という多次元偏微分方程式を様々な角度から考察する学問で, 熱・統計力学とも密接な関わりがあるので, 微積分, 線形代数, 確率・統計などの基礎数学が不可欠です. 現在の私の数学力の3割くらいは, 曾根先生の授業で必死に勉強したおかげで身についた気がします.
おまけ (松田卓也先生)
同窓会でお見かけして, 思わず「写真を撮らせてください!」とお願いしたのが神戸大学名誉教授の松田卓也先生. 私が学生だった頃は航空工学科の助教授で, 確か「気体力学特論」の講義を拝聴した思い出が.
先生は航空工学科出身ではなく, 理学部出身の宇宙物理学者. ブラックホールに天体が吸い込まれる現象を流体力学的に解明するという研究をされていました. 壮大な宇宙の物理学を語るかと思えば, 飛行機はなぜ飛ぶかを素人にわかりやすく説明することもできたりして, 非常に多才な方. 私が学生だった頃から頭脳明晰で「めっちゃ頭いい人」オーラが出ていました😓
実は, つい最近知ったのですが, 2006年に定年退職されて以降は人工知能分野でも情報発信をされています. 例えば『2045年問題 コンピュータが人類を超える日』というシンギュラリティを扱った書籍を2012年(一般社会でシンギュラリティなる言葉はほとんど知られていなかった頃!)に出版し, 今も関連する講演を多数こなされています. さすがは松田先生と改めて感じ入った次第. 以下の航空機と人工知能の対比などまさに卓見! (資料全編はこちら).
よいお年を!
めったに書かないのに一度書き始めると長文になりがちな当ブログを読んでくださりありがとうございました. 大学は12月26日から冬休み, 28日からはキャンパスの正門も閉まっています(守衛さんに言えば入れてもらえますけどね).
皆さんが穏やかな初春を迎えられますように. 受験生は最後の追い込みですね. それからうちの卒論生と修論生も💦 健闘を祈る!
0 件のコメント:
コメントを投稿