2023年2月19日日曜日

昔の大学はこうだった

年が明けて2023年が始まったと思ったのもつかの間, 気がつけば早2月後半.  時間が進むスピードにまったくついていけてない私です.  大学の1月から2月前半はイベント目白押しで(卒論, 修論, 発表会, 大学入学共通テスト, 学期末の試験やレポートの採点, 等々), あっという間に過ぎ去ります.

昨年に続いて今年も大学入学共通テストの主任監督者を拝命. いつもながら大変神経を使う仕事.

さて今回は, 自宅で古い書籍を整理していたら面白いものが出てきたので紹介します.

まずはじめにこの本. 私が学部1年生のときの解析学(微積分)の教科書, 『解析概論(改訂第3版)』. 我が国が誇る偉大な数学者, 高木貞治による大変有名な本で, 名著と呼ばれています. 500ページの大著でもあります. 

汚れて見えるのはおそらくただ単に古いから. この本をみっちり読んで勉強した記憶はあまりない.

中身は外見から想像される通りで, 近づこうとする者を寄せつけない険しさがあります. 本を開くとまず「数とは何か?」という高度に抽象的な話から始まって, 有理数の稠密(ちゅうみつ)性 ― 数直線上のどんなに短い区間にも有理数が存在する, つまり有理数は数直線上に隙間なくみっちり詰まっているということ  とか, 数を上組(大きい方)と下組(小さい方)に分けて実数を定めるデデキンドの切断とか, 連続関数の何たるかを規定するイプシロン・デルタ論法とか.

おそらく多くの大学生がそうであるように, 高校を卒業して間もない私はこれらの抽象的な話題にまったく興味がもてず, 微積分を含めて数学全般を学ぶ意欲を失っていた時期がありました. 少なくとも1年生の頃に履修した微積分や線形代数はほとんど理解できていなかったはずで, 単位が取れたのが我ながら不思議.

さて, 今回ご紹介したいのは本ではなく, その裏表紙に挟まっていた紙片. 表題に「数学1 試験問題」とあるので, これはまさしく1年生の微積分の期末試験問題.

昭和62年度後期 数学1 試験問題

35年前の試験問題はいろいろと衝撃的で, どこから考察すればよいのかわかりませんが(笑), とりあえずこの時代の大学の試験問題は手書きだったようです. 大学の先生はだいたいそうですがとりわけ数学の先生は字がお上手ではなく, 読み難い….

面白いのは最後の第4問が鉛筆書きで加筆されていること. 確かこれは, 試験当日に先生が板書して学生に書き取らせたものです. 先生の気が変わって試験問題が突然増えるというのはなかなか驚きですが, 昔の大学の大らかなところだったかもしれません. また, 改めてこの第4問を見ると, 他と比べて明らかに難易度が低い. 点数の足りない学生を救済するための温情問題だったと思われます. (私が単位を取れたのはこの問題のおかげ?)

昔の大学は(私の大学が特にそうだったのかもしれませんが), 学生は全然授業に出ないし, 教員が授業をすっぽかすこともあったりして, 良く言えば自由, 悪く言えば無茶苦茶でした. 数学1を担当されていた鈴木先生は気さくで憎めない人物でしたが授業は難解で, 黒板に次々と繰り出される数式をぼーっと眺めていた記憶があります. 大学全体として, 授業に対する学生の理解度や満足度はあまり考慮されておらず, 落伍して大学に来なくなる学生はたくさんいました. 大学は学生に優しくなく, 結果として, 数学力は学生時代にみっちり鍛えられましたが.

当時の試験問題をもう一つ紹介します. 学部3年生の専門科目, 熱統計力学の試験問題.

平成元年度 熱統計力学 試験問題

これも手書き. 前出の数学1が特別だったわけではなく, 当時の試験問題は手書きが標準だったようですね. 担当教員は卒論と修論を指導いただいた我が恩師, 森岡先生(2019年に88歳で逝去). 先生の几帳面な性格が表れた独特の字体. 問題はどれも簡素でいて, しかし解いてみると奥が深くて, 定式化も含めてかなり長い解答になる…これは森岡先生だけでなく, 学生に深く考えさせようとする学科全体のカルチャーでした. 教科書は原島鮮(著)熱力学・統計力学』. 解析概論に比べると近づきやすくかつ味わい深い. 今でも多くの大学で教科書に採用される名著です.

思えば, 3年生になって専門科目を学び始めたこの頃から, 学問が楽しいと感じるようになりました.  とはいえこの熱統計力学も結構難解で, 当時は半分も理解できていなかったような…. この種の古典物理学は学生時代にたくさん学びましたが, どれも完成された美しい理論体系があります. ただそういう美的感覚が理解できるようになったのはだいぶ後だったかもしれません.

大学での学問というものは, 授業で教わったらすべてが理解できてそれで完結というものではなく, 深く学べば学ぶほど新しい発見がある. だから楽しいのだと思います. 授業が難しくてよくわからなかったとしても, そのわからなさをひとまず受け入れて, 興味をもち続けて深みを目指すと, 新たな視界が開けます.

…という学生の皆さんへのメッセージをもって今回は終わります. 最後までお読みいただきありがとうございました.

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