2022年8月15日月曜日

古井貞煕先生のご冥福をお祈りします

今回は個人的に悲しいニュース.  尊敬する研究者, 東工大名誉教授の古井貞煕先生が7月31日に77歳で逝去されました.  2019年頃から体調を崩されていましたが, とうとうお別れの時が来ました.  Sadaoki Furui, 世界中の研究者がリスペクトする音声認識の先駆者.  それはもう超絶偉大な, 私の研究分野の巨人です.  


巨星墜つ… (写真はtoyokeizai.net)

どれくらい偉大かというと, 論文実績や受賞歴は言うまでもなく素晴らしくて, 私がここで述べるまでもないです.  代わりにちょっとしたエピソードを一つ紹介すると…学会活動で海外に行くと, 見ず知らずの外国人の学生が駆け寄ってきます.  何かと思ったら「古井先生と一緒に写真が撮りたい」と.  私は写真を撮る役でしたが(苦笑), それくらい古井先生は世界的に著名で, 尊敬され, なおかつ人気がありました.

なぜそれほど人気があるのかというと, 研究者として卓越しているだけでなく, 人格者だからだと思います.  社会人博士で学位を取得した私は, 本業の仕事が忙しくてなかなか大学に行けなかった苦労人(?)なのですが, その頃の先生との会話が思い出されます.

古:越仲さん, どうですか, そろそろ学位は取れそうですか.
私:はっ, 古井先生😳 いや~, 仕事に追われて, まだまだかかりそうです.
古:越仲さんは研究がお好きですから, まだまだ研究を続けられていいですね, はっはっは.
私:😅

…とこんな具合で, 私のような者まで気にかけてくださり, ジョークを交えて励ましてくださる, そういう方でした.

2016年, 東工大 篠田研究室(前身が古井・篠田研究室)の新年会にお邪魔したときのスナップショット.  こんな感じで気さくな方だがその正体は偉大な研究者なので, 隣で若干固まり気味の私.

2011年3月に東工大を定年退職された後も多方面で活躍されましたが, ご本人がもっとも力を入れられたのは, 豊田工業大学シカゴ校(Toyota Technological Institute at Chicago; TTIC)の学長のお仕事であったと思います.  トヨタ自動車が経営する日本の大学が, 米国の名門シカゴ大学の敷地の一角を借りて運営する博士課程のみの分校.  TTICはそんな小さな学校ですが, 今や米国の一流大学に見劣りしない優れた研究者と学生を擁する本物の大学.  古井先生だからこそできた仕事です.

「いつでもシカゴに遊びに来てください」とのお言葉を真に受けて, 用事を作ってシカゴまで遊びに仕事に行った際に伺った学長の苦労話は, あまり苦労している風には聞こえませんでしたが(笑), 難しい仕事をあっさりやってしまうのがこの人のすごいところ.  優れた学者はえてして経営音痴だったりしますが, 古井先生はマネジメント手腕も非凡でした.

2018年, 豊田工業大学シカゴ校(TTIC)にて, 左から私, 私の元同僚の花沢さん, 古井先生, 東工大の篠崎先生, 私の元同僚の荒川さん.  ちょうどハロウィーンの時期で, 右手の手すりには蜘蛛の巣の飾りつけ.

ちなみに, 写真左から2人目の花沢さんは, 古井先生がNTT研究所から東工大に移られた1997年に発足した古井研究室の1期生で, 現在は大企業の研究開発部門で要職に就いています.  右から2人目の篠崎先生も古井研究室の初期の頃のメンバーで, 音声認識研究者として大学に残り古井先生の意思を受け継ぐ高弟の一人です.  古井先生は教育者としても一流だったわけです.

晩年は, シカゴでの経験を踏まえて我が国の教育行政の問題点を伝える執筆活動にも尽力され, 2021年5月に書籍を出版されています.  

その元となったネットの連載記事はこちら.  大学のみならず営利企業の研究開発部門にも当てはまる鋭い考察多数で, 前職時代に欠かさず拝読していました.

古井先生という魅力あふれる人物に出会えたことは私にとって幸運でした.  残された者に多くの財産を残して旅立たれた先生のご冥福をお祈りします.  最後は昭和の名曲, 佐野元春の『グッドバイからはじめよう』で終わります.

実は古井先生の話は冒頭で少し触れるだけのつもりでしたが, 書き始めると止まらず…😭 本日用意していたトピックはまた次の機会に.  最後までおつき合いいただきありがとうございました.

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